名品紹介

加賀市美術館名品選

加賀市美術館には地元作家による名品を多数所蔵しております。その一部をご紹介いたします。

No.1 木彫截金合子「鴛」

木彫截金合子「鴛」西出 大三
制作年:昭和44年(1969)
サイズ(cm):高7.6×幅15.2×奥行7.3

 截金とは切金・細金ともいわれ、金箔や銀箔を細い線や小さな三角・四角・菱形などに切って貼り付け文様を作る技法で、金・銀が発する強い輝きと箔を切った鋭い線による、優れた装飾的効果が発揮される。

 優雅に水面に浮かぶ鴛を表現。鴛は通常「鴛鴦」として雌雄のつがいで表され、夫婦和合を象徴する吉祥のモチーフ。岩絵の具で彩色し、その上から金・銀・プラチナの切箔、花文、七宝繋ぎ文などをふんだんにあしらう。首に整然と淀みなく流れる金の羽毛、背中にピンと立った銀杏羽、胸のあたりにひときわ輝くプラチナの花文が目を惹く。華やかさの中に愛らしさがただよう優品である。

西出 大三 にしで だいぞう

大正2(1913)年~平成7(1995)年

加賀市橋立町生まれ。東京美術学校(現東京芸大)彫刻科卒業。在学中、京都・浄瑠璃寺吉祥天像の台座截金文様に触発され截金技法に取り組み、その復活に生涯を捧げた。1985年、重要無形文化財保持者(人間国宝)に選定。日本工芸会参与。


No.2 鉄打出兎置物

鉄打出兎置物 山田 宗美
制作年:明治時代
サイズ(cm):高23.5×幅23.0×奥行14.5

 延展性に乏しい一枚の極薄い鉄板を、均一の厚さを保ちながら、金槌を使って打ちのばし、打ち絞ることによって置物や花瓶を造形していく鉄打出工芸。たった一枚の鉄板から形成されているとは到底思えない躍動感あふれる精緻な写実表現は他の追従を許さない。また、一見鋳造品と見紛うばかりの重量感をもつが、実際に作品を手にすると驚くほど軽い(本作品の場合770g)。しかし、この技法を生み出された過程や技法の詳細などを特定できる資料は残されておらず、現在は再現不可能な「幻の技法」である。

 両耳を真っ直ぐに立て、うずくまる兎を造形。今にも跳びはねそうな前肢と後肢の緊張感に満ちた筋肉表現、ふわふわとした毛並の質感、両頬を膨らませ何やら口に含んでいそうな滑稽味ある兎独特の表情は生々しいほど写実的で、作者の観察眼の鋭さを存分にうかがわせる。一連の鉄打出工芸作品の中でも代表格といえる。

山田 宗美 やまだ そうび

明治4(1871)年~大正5(1916)年

加賀市大聖寺鍛冶町に生まれる。本名長三郎。父に象嵌・鍛金を学ぶ。明治24(1891)年、一枚の薄い鉄板から置物や花瓶などを成形する鉄打出の技法を考案。明治29(1896)年日本美術展覧会、明治33(1900)年パリ万国博覧会、明治39(1906)年セントルイス万国博覧会など多くの博覧会で受賞。大正5(1916)年、帝室技芸員に内定しながら発表前に亡くなる。


No.3 夕照の舟着場

夕照の舟着場 森本 仁平
制作年:平成7(1995)年
サイズ:M60

 何艘かの小舟が、夕暮れの舟着場に、静かに佇んでいる。茜色の雲が一面に広がる空と、それを映して凪ぐ海。それら風景全体を包み込むアンバー系の穏やかな色調。誰もがかつて味わった、懐かしい温もりが画面から滲み出し、見る者に深い郷愁を呼び起こしてくれる作品である。

 作者は戦後、社会派の画家として反戦の願いを込めた作品や物質文明への警鐘的意味合いを持った作品を発表し続けたが、やがてありのままの自然を見つめる、自然賛美の風景画へ向かっていった。その風景は日本人の心の「原風景」とでもいうべき、優しさと懐かしさを宿している。

森本 仁平 もりもと にへい

明治44(1911)年~平成16(2004)年

加賀市大聖寺に生まれる。幼時に東京へ転居。昭和7(1932)年東京美術学校師範科卒業。美術教師を勤めるかたわら、日本アンデパンダン展、自由展などに出品。自由美術協会会員となるも、昭和50(1975)年退会。昭和48(1973)年新鋭選抜展、昭和52(1977)年日本画壇の全貌展出品。以後、個展を中心に活躍した。平成9(1997)年に当館に23点の作品を寄贈。